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...... 2009年02月20日 の日記 ......
■ 韓国の心を描く、巨匠イム・グォンテクの監   [ NO. 2009022001-1 ]
韓国の心を描く、巨匠イム・グォンテクの監督通算100作目の「千年鶴」

すでに韓国国内では興行も終了しているイム・グォンテク監督の「千年鶴」が、第12回釜山国際映画祭においては、10月7日にMegabox Haeundae 5にて上映され、主演男優のチョ・ジェヒョンを従えて、イム監督とその片腕チョン・イルソン撮影監督が舞台挨拶を行った。しかしこれまでいくつもの作品にこのお二人とともにトリオで取り組んできた泰興映画社のイ・テウォン社長の姿はそこにはなかった。詳しい事情は存じ上げないが、この100作目の企画自体は、早い時期にこの“黄金トリオ”からお聞きしていたけれども、その後に伝わってきた報道によると、出資金を集める時点でこの企画は相当に難航してイ・テウォン氏はプロデューサーを降りたらしい。
映画の内容は後でまとめるが、パンソリの世界を描くということが、果たして韓国の若い観客に訴求するものかと最終的に他の出資社からも問われたのだろう。実際に興行的には失敗したそうだ…。
イム・グォンテク監督はこれまでに、「キルソドム」(85)「開闢」(91)「太白山脈」(94)「祝祭」(96)「春香伝」(00)「酔画仙」(02)「下流人生」(04)といった代表作を好意的にアジアフォーカスに出品し、何度も来福されている。トリオで取り組んだ作品のときには、三人揃っての参加も度々だった。国際的な評価はいまさら語るまでもないが、92年にフランス文化芸術勲章、97年に福岡アジア文化賞、98年にはサンフランシスコ国際映画祭において黒澤賞、そして02年に大韓民国金冠文化勲章などを受けている。
日本人では二人目となる韓国文化勲章受章の映画批評家・佐藤忠男氏によって「韓国映画の精神〜林権澤監督とその時代」(岩波書店)が2000年に上梓されており、作品論として何も不足するところはなく、「春香伝」までのイム監督の足跡とその精神を辿ることができる。またこの本の冒頭にはイム監督と佐藤夫妻の出会いのエピソードも記されているが、監督とは長年の親交をお持ちの佐藤夫妻に随行する形で、筆者も何度も渡韓することで、イム監督が近年の新作を発表されるたびに触れてきた。
「娼」(97)は試写で見せていただいたが、娼婦の館を大胆に捉えたカメラワークがいまでも脳裏に焼きついている。「春香伝」(00)は、当時カンヌ国際映画祭のコンペ部門に招待された最初の韓国映画となった作品だが、カンヌ出品直前に試写していただき、音楽と映像のみごとな調和に感嘆したものだ。「酔画仙」(02)のときは作品関係者を集めた完成披露試写に潜入することができた。会場はシネコンのひとつだったが、劇場の扉前では関係者を迎える主演チェ・ミンシクの姿もお見かけした。天才画家の破天荒な生涯を描いたこの作品は韓国映画として初めて第55回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した。「下流人生」(04)の場合は、通常の劇場公開時に拝見した。不思議なことだが、この映画のプロデューサーであるイ・テウォン氏が自ら、チケットブースで佐藤夫妻をはじめるとする我々のためにチケットを購入(!)しての鑑賞となった。客席は空席のほうが多い。ほとんどのお客さんは最後まで待たずにせっかちに退場。エンドの前に照明も明るくなってしまう。ストーリー上重要な意味を持つエンドロールだけに残念と、そのことを監督ご本人に確認すると、韓国の観客はこうだから…と意外にさばさばとされていた。
さてイム・グォンテク監督といえば、日本では単館ロードショーでヒットした93年の名作「風の丘を越えて〜西便制」がよく知られているところだろう。血のつながらない姉弟を連れて旅をするパンソリの歌い手の男。男は姉に歌を、弟に太鼓を教えながら旅芸を続け、二人の子どもはやがて鼓手と唄い手の名コンビに成長する。しかし弟は養父から逃げ出してしまう。一方で姉は養父から失明させられる。けれどもそれは、パンソリの芸を極めるため…。
韓国の伝統芸能パンソリの旅芸人一家を描いた作品である。著名な作家・李清俊の連作小説「南道の人」のはじめのふたつの短編を原作に、“恨(ハン)”をめぐる物語として映画化し、韓国でも当時記録的な興行成績を残したイム監督の代表作のひとつとなった。
そして巨匠イム・グォンテクの監督通算100作目となる2007年作品の「千年鶴」は、この連作小説の続きの短編を映画化したもので、映画観客にとっても、「風の丘を越えて」の続編にあたるものとして注目を集めた。前作で離ればなれになった姉と弟のその後が描かれるということだ(小説では兄と妹)。パンソリの名手である男に育てられた血のつながらない姉と弟。家族のもとを去った弟のドンホはある日、彼らの元を去る。時が経ち、姉ソンファの行方を捜すドンホは、彼女が盲目となったことを知る。そして二人は運命の糸に操られるままに、出会いと別れを繰り返していく…。
パンソリの調べにのって、スクリーンで鑑賞するに値する美しい音と映像のシーンが、前作同様に随所に登場する。引き続いてオ・ジョンヘが姉を演じているが、清楚な顔立ちから発せられる唄声は円熟味を増している。弟ドンホ役は「悪い男」(キム・ギドク監督)のチョ・ジェヒョン。ちなみに前作では、後に韓国文化観光部長官を務めたキム・ミョンゴンが弟を演じている(韓国文化観光部長官には、映画界からはイ・チャンドン監督も就任している)。
100作目という節目の作品にこの「千年鶴」を撮りたいというお話は、前から伺ってはいた。しかし、前作が大ヒット作となっていることもあって、相当の重圧感があったのではなかろうか。イム監督はマスコミに対し「前作とは全く別の作品としてみてほしい」とコメントしているが、登場人物や状況設定が同じこのふたつの作品は、監督のおっしゃるとおり、連続ものというよりも、パラレルな世界としてみることでその面白みは増すと思う。
さてここで、話の舞台を釜山に戻す。釜山国際映画祭開催中に、イム・グォンテク監督の資料館が釜山市の東西大学に設けられたことが発表された。デビュー作「豆満江よさらば」から100作目の「千年鶴」までの全作品のビデオテープやDVD、シナリオ、ポスター、関連の資料などが集められている。イム監督はこの東西大学の教授にも就任し、大学側によると「イム監督の歴史は韓国映画の歴史」という精神から開設したそうである。たいへんうらやましいことである。以前にソウルの韓国映像資料院でイム監督の古い作品を見せていただいたことがあったが、今後ここ釜山ではいつでもイム監督作品が鑑賞できるというわけだ。釜山はほんとうに、映画都市として想像を越えて進化を続けている…。
最後に。「千年鶴」は、12月8日から東京のシネカノン有楽町1丁目にてスタートする、韓国映画振興委員会(KOFIC)主催のイベント「韓国映画ショーケース」の上映作のひとつとして公開予定である。
(2007年11月28日)


追記・主演女優オ・ジョンヘは「千年鶴」で11月27日に閉幕した第29回ナント三大陸映画祭の主演女優賞を受賞した



「千年鶴」のバナー、釜山国際映画祭にて

南カリフォルニア大学などによるイム・グォンテク特集上映のパンフ(96年)


http://photo-out.net/


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